ここ数日間、見たことないほどの晴天。雲は爽やかな風に吹かれて蒼天の遥か高くにな
びき、久住山はどっしりと腰をすえて竹王国を抱え、これまで試練を与え続けてきた自然
の全てが我々の奮闘を讃え、竹王国の誕生を喜んでいるように思えた。
TAOは、昨夜残ってしまった客席割りを済ませ、楽器の準備及び太鼓のメンテ、TAOバー、グッズ売り場、ワークショップ会場の準備に走り回り、開場ギリギリにほぼ準備を整えた。
王国の門には開場前からもうすでに長蛇の列ができ、今か今かと開場を待ちわびるお客
さんで賑わっていた。
11:00、開場。観客が流れ込み、場内が一気に賑やかになった。天の運・地の利・人の和がそろったこの瞬間、竹王国は完成し、一日限りの王国の誕生祭が始まった。お客さん
の中には毎度お馴染みの顔もあり、メンバーと挨拶を交わす光景があちこちで見受けられ
た。
12:00、ワークショップのレッスンが始まった。笛と太鼓、それぞれ初心者コースと上級者コースに分かれ、和楽器の楽しさ、難しさ、そして最後には、練習の成果を合奏という形で披露する喜びを味わってもらえる、良い機会になったのではないだろうか。
15:00、ワークショップを終え、いよいよ本番演奏の準備に取り掛かった。メンテが間に合わなかった太鼓のメンテを急ぎ、必要最低限の手合わせと転換チェックに頭をフル回転させ、衣装に着替えた。
残念ながら、練習は十分ではない。中には一度も全員で合わせていない楽曲もあり、不安要素を山ほど抱えての本番である。しかし、そんなことは観客には関係ない。何より、
我々はプロのエンターテイナーなのだ。観客に楽しんでもらえるよう、今の自分にできる
最高のパフォーマンスを、この用意された最高の演出と大舞台の中で披露する。たとえどんなハプニングが起こっても、それを観客に楽しんでもらえるワンシーンに変え、一生の
思い出に残るステージを…。そう、自分たちは、TAOなんだ…。
きっと、思っていることは一緒だったのだろう。メンバーの顔には確かに、覇気と笑顔
と適度な緊張が輝き、いつにない団結力が結ばれているように感じられた。
「自分たちで作った自分たちのステージだ、思いっきりやれや!!」
水藤リーダーの力強く、安心感のある声のもとに手を差し出し、重ねた20の手が高々と
空に突き上げられた。
ついにステージの門が開かれ、演奏が始まった。サブステージにおけるTAOⅡの“新・
屋台囃子”に始まり、突如、メインステージでTAOⅠの“新・八丈”へ飛び火し、そのままセンターステージに乗り込み、観客のど真ん中での“唐津”。目まぐるしい展開のオープニングに観客は騒然とし、久々にTAOⅠ・Ⅱそろっての“Queen”で、竹王国は一気に本格的に宴の空気に満ち、観客の歓喜の拍手が沸き起こった。
一転して、その熱をじっくりと暖めるかのように“静かなる光”が高原に響き、それに
呼応するかのように、夕焼けも静かに赤々とした帯を沈めていった。
いよいよ夜になる。竹王国に訪れる妖艶な夜を迎え入れるかのように、女性三人の組太鼓によるうねるようなグルーヴが紡ぎだされた。“盾”だ。沸々とうねる熱は絡み合いながら徐々にその温度を上げ、観客を引き込んでいった。
その熱はそのまま、舞台にゆったりと現れた平胴太鼓に引き継がれた。男が打ち鳴らし
た豪快なる一打が、妖艶な夜を一変して豪壮な空気に変え、三人の男達による息を呑むような太鼓の闘い“マーシャルアート”が繰り広げられた。渦巻く轟音はどくろを巻いて響き渡り、そのエネルギーに呼び寄せられるかのように集まってきた中太鼓群と大太鼓が高らかに響き始め、“この空につつまれて”へとつながって、長胴太鼓の重厚な響きが王国いっぱいに満ち溢れていった。
そして迎えた第一部のラストナンバーが、今回最も不安要素を抱えた曲“里の唄”である。TAOにとってこの曲を演奏するのは実に約二年ぶりであり、初めて演奏するメンバー
も少なくなかった。「“里の唄”はフリーだ。気ぃ利かせていけ。」とリーダー。そうだ。こんな時にこそ、普段つちかってきた気配りの精神の発揮所なのである。全体の動きと雰囲気、そして音のバランスをつぶさに感じ取りながら、しかし慎重になりすぎず表情豊かに
演技する。そう、ここは久住高原のど真ん中、“里の唄”の牧歌的イメージそのままのロケーションなのだ。自然にいこう。
演奏はいくらかつまずいたところはあったものの観客の熱は冷めることなく、第一部が
終了した。全員急いで第二部の準備を急ぎ、転換のチェックと手合わせに励む。そんな中、
朗報がプロデューサーから告げられた。「チケットが完売したぞ。」この驚きのニュースに
メンバーは湧いた。そういえば、あまり売れ行きが良くないということを聞いていたわりに観客がひしめき合い、立ち見客で溢れかえっていた。今この王国には、久住の人口より
も多い人が集まっている。この『竹王国の誕生祭』が、竹田史上最大のイベントとなって
いることはもはや疑いようのない事実となった。
第二部の準備も整い、空にはくっきりと満月が浮かんでいた。BGMが消え、メンバーが静かに楽器につくと、客席から拍手が沸いた。どうやら観客はまだ第一部の熱を保ってくれているようだ。虫の音のような竹楽器の音がこだまし、自然の音が次第に民族調の旋律へと変化していく。なにかが起こりそうなことを期待させるような濃霧のような竹の音は
徐々に厚みを増し、途端に中央に横たわる桶胴太鼓の一発の炸裂音がその霧を突き破った。
何かが近づいてくる…そんな地を這う太鼓の音が、ひとつ、またひとつとその数を増し、
戦いの始まりを思わせるラッパの音を合図に、一気に勇猛果敢な太鼓がうなりだした。
“MAORI”だ。本場ニュージーランドから帰ったばかりの男たちは、持ち帰ったマオリ族
の魂を込めた勇壮な掛け声とともに地響きのような太鼓の音で大地を揺らし、竹王国の戦闘的一面を観客に見せつけた。
次に現れたのは燃えるような紅巴の平胴太鼓と長胴太鼓の櫓である。それらに向かうは
五人の女性。さきほどの野性味溢れる雰囲気とは異なる、日本女性の凛とした気品のある
勇ましさが会場の空気を再び変えた。女性特有のしなやかな動きから繰り出される力強い
連打の嵐に、客席からは曲半ばにして驚嘆の声と拍手が沸き起こった。
そして、サブステージの扉が開いた。さきほどの燃えるような熱気とは打って変わって、
涼風をまとうような張り詰めた緊張感とともに、空気を裂くような締太鼓が王国の夜空に
響き渡った。今回が本邦初公開となる“新・天響”、息の詰まる張り詰めたフレーズの連続
が、日本独特の凛々しさとなって満月の夜空を駆け巡った。
メインステージの扉が開いた。女性四人による笛の四重奏が、張り詰めた緊張感をそっと和らげていく。緩やかな嵐の前の静けさの中、満月に照らされた大太鼓がセンターステージへと向かい、鍛え上げられた剛健な筋肉を湛えた二人の男が一歩、また一歩、歩みを
白く輝く打面にぶつかり、腹に響くような轟音が打ち鳴らされた。この上なく力強く、巨大な音の塊が心地よいリズムとなって体の芯に響き、奏者の背中が放つオーラと流れる汗に、観客は釘付けになった。勢いは留まることを知らず、燃え盛る魂の独壇場がその結末を迎えたとき、客席からは惜しみない賞賛の歓声と拍手が奏者に浴びせられた。
再びヒートアップした空気の中、サブステージから打ち出された大桶の音がその熱をそのまま受け継ぎ、客席からは二分取りの手拍子が始まった。一人、また一人と、太鼓がそろい、勢いが増していく。観客も次の曲を待ちわびていたようだ。TAOの切り札、“大祭”
が始まった。お馴染みの勇ましいフレーズが続き、ダウンして再加速しようとした次の瞬間、メインステージに光が満ち、TAOⅠによるもうひとつの大祭が突如始まった。前代未聞の“W大祭”。予想だにしない演出に観客は度肝を抜かれ、驚嘆と歓喜の声が王国に溢れ
かえった。王国の熱は最高潮に達し、とめどない歓声と拍手が城壁を越え、久住高原に鳴り響いた…。
ステージの前方に並び、メンバー一人一人名前を読み上げ、紹介していく。観客はそれぞれに拍手を送り、この祭が最後を迎えようとしていることを知る。
リーダーの感謝の気持ちを込めたMCが終わり、いよいよ最後の曲、“Festa”が始まった。TAO全員による演奏にあわせ、花火が打ちあがる。Beat of Globeならではの最高の演出に竹王国は感動に溢れ、約一万人といわれる観客の胸に、今宵の感動が鮮やかに刻まれたに違いない。TAOにとっても、一生忘れることのないBeat of Globeとなった。
満月は喜びに満ち、久住山にこだました一夜限りの竹王国は、人々の胸に永遠に残り、
その姿を消した。 |