“原点”の重みを教えてくれた世界の旅
この夏の九州・山口ツアーでついに初めて舞台にその姿を現す新しいステージプログラムのテーマは『打』。2004年『舞音の土也』、2005年『The Martial Art of Noise』と流れてきたこれまでのプログラムに比べると、打って変わってシンプルで骨太なテーマだ。ややもすると、和太鼓集団の掲げるテーマとしてはあまりにも無作為とも思えてしまいそうな言葉だが、今、あえてこの言葉を選んだのには深く、大きな理由があった。
発端は昨年、TAOにとって初の本格的な海外長期公演も後半にさしかかったイタリア公演の時だった。
イタリア公演の時は、とくに技術面を稽古していた時期だった。繊細な音、細かい音、手先の技にこだわり、全員でもっと音を揃えようというように。それをやっていくうちに、確かに演奏はどんどんまとまっていくけれど、不思議と気持ちが通い合わない、何か物足りない、という感覚にとらわれるようになった
「みんな、太鼓をやっていて楽しいか? 俺たち何か忘れていることがないか?」
世界に飛び出してからどこでも大成功を続けてきて、いつしか『満席で当たり前、スタンディングオベーションで当たり前』という驕りが生まれていたのではなかったか。確かにメンバーはどこでも、筋トレ、素振り、打ち込みと猛烈なトレーニングを続けているのだけれど、いつしか芽生えたその驕りによって『これでいいんだ』というマイペース、自分の感覚での練習になっていた。もしかしたら、生命の音を発するべき和太鼓なのに、そこまでの音を出し切れていなかったのではないか。始めてその気づきから生まれた新しいTAOのテーマが『打』だったのだ。
もう一度13年前のTAOのように
もう一度、13年前にTAOを始めた時の感覚に戻って、皆で一緒にやろう。
そうして気づき、修正を重ねていくうち、TAOの発する音には再び輝きが戻り始めた。
このテーマは、単に『あの頃に戻ろう』ということではない。常に根底にある大切なものの再確認。それも成長を遂げてきた現在の視野から確認するから、基礎の作り方も新しい感覚で考えられる。躍進している中でこれを再発見できたことが非常に良かった。
世界の舞台に飛び出し、各地での成功を重ねる中で見失いかけていた大切なもの。そのためにバランスを失い、危うく墜落寸前のところで自らの重心を再確認して失速を免れ、ふたたびさらなる高みを目指す上昇気流を彼らはつかみとったのだった。
原点を見つめ直して生まれた新ステージ
今回のステージの楽曲は、新曲を導入して構成される。原点に回帰する命の一打。いずれもそのテーマをさまざまに掘り下げたものとなる。そして楽器編成、舞台装置、照明、衣装など、すべての面であらたな試みがふんだんに盛り込まれることになるという。ゆるぎない原点を握りしめているからこそできる、新しい挑戦ということなのだろう。
TAOはこの夏の国内ツアーに続き、秋からはふたたびヨーロッパへ旅立ち、そして来年はヨーロッパ、オーストラリア・・・と続く、今後二年に渡るすべてのツアーをこの新しい舞台を基本に展開する計画だ。
だが、それにはクリアすべきハードルがある。
TAOを始めた時からの考え方で、海外では注目されやすい和太鼓ということに甘えてはならない、まずは地元の人々が「Yes」と言ってくれたものでないと、外へは出さないようにしようと。だから、今回のツアーでお客様が素晴らしいと言っていただかなければそのままこの舞台を海外へは持って行きません。九州ツアー約二万人の観客アンケートの結果が、秋以降のステージの内容を決めるものになります。
今彼らのもとには、アメリカ公演へのオファーが寄せられている。結成当初から目標に掲げ、憧れ続けてきたエンターテイメントの本場での本格的なツアー。その夢に描いた頂が、今彼らの眼前にようやく姿を見せ始めた |